動揺の浸透と拡散について
スタート
あの芥川賞作家が動揺について涙ながらに語る映像
智の居所は、肌身離さず付けておくようにと言ってプレゼントしたGPSつきのペンダントのおかげで、すぐに突き止めることができた。
だが、その場所のせいで迷子ではないと結論付けなければならない緊張を伴う事態ともなっていた。
外務省の協力により、スムーズに事が運ばれていく。
プロたちによって状況はすぐに明らかになっていった。
その空港とはかけ離れたといえる場所に存在する小屋にいるのは若い青年数人。
彼らがどう言った経緯で空港で智くんと接触したかはわからない。
だが、怪しげな場所に存在する小屋に集まっていることで明らかにおかしいと判断された。
FBIによれば営利誘拐の可能性は低いそうだった。
智くんは私の携帯番号を知っている。
サクライの関係者だと知って誘拐されたならすぐにも身代金を要求されそうだが、未だに連絡がないのは金銭目的ではない可能性が大きい。
その事を示唆されて、血の気が引く。
あの子は確かに可愛らしい容姿をしている。
大人っぽいが、こちらでは東洋人は幼く見えるらしいから本当に小さな子供だと思われたんだろうと言われた。
子ども自身を狙う奴もいるが、一つだけ解せない点があった。
犯人が複数だと言う事だった。
そう言った性癖がある犯人は大抵が単独だそうだ。
複数という事で、違う意図があるかもしれなかった。
「違う意図…?」
『小さな子供を集団で痛めつけると言った事件がありました。
あくまで可能性ですが、こちらが言いたいのはどちらにしても緊急に救出の必要があると言う事です。』
眩暈がしそうだった。
一緒に便をズラさなかったのが悔やまれる。
もっとサポートをつければよかった。
先に付いてるグループに合流するだけだからと考えが甘かった。
ガードの人間も翔と和也に重きを置いて、連れ子にすぎないと考えて智くんの存在を軽く見ていた傾向がある。
あれもこれもと考えがめぐるが、後悔したところで後の祭りだった。
あの子に何かあったら……
俺はどうすればいいんだ…?
やっと一緒に暮らせるようになったと言うのに、自分の考えの甘さを後悔してもしきれない。
葉月…
智を守ってくれ。
俺はイライラとしながらその時を千秋の思いで待っていた。
◇
事件発生翌日、午後18:00 突入
犯人五名全員射殺
被害者確保
事件はあっという間に解決した。
被害者が未成年だと言う理由であらゆるところに手をまわして強引に名前を伏せさせた。
そして…
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 智
『……くん……智くん……。』
おとうさんの声がして体が揺すられた。
「あっ…おとうさん…?」
『ああ…ああ、そうだよっ。』
頭がボンヤりする。
軽く頭痛もあった。
何だか気持ちが悪くて吐きそうだった。
ゆっくり当たりの様子が分かってくる。
俺が目覚めたのは病院だった。
え…っと…
そうだっ。
「おとう……。」
話すだけで頭が痛い。
なんなんだっ…
オジサンに借りているお昼代の事を話そうとして出来なかった。
『大丈夫かっ?』
「大丈夫…ちょっと頭痛がするだけ…。」
応えるや否や、抱きしめられていた。
くっ…苦しい…
おとうさんを相当心配させてしまったらしく、苦しいくらいの抱擁で息も出来なかった。
さすがに苦情を言おうとして、だが言えないまま固まっていた。
信じられない事だが、おとうさんが泣いていたからだった。
迷子になって心配させてしまったんだ。
もう中学生だと言うのに恥ずかしい…
「……ごめんなさい……。」
『うん…本当にそう…だっ…。』
やっぱり、涙ぐんだ声…
俺はおとうさんが落ち着いた頃にオジサンの事を聞いてみた。
世話になったからお礼をする必要もあったんだ。
だが、おとうさんは黙って顔を歪ませた。
怒らせた…?
なんで…?
『その人は幾つくらいの人だね…?』
年なんて聞かなかった。
そう言えば名前も聞いていない。
あの時はそんな余裕はなかった。
「…さあ…?」
『私より若い…?』
「…。」
おとうさんより…?
「若いか…同じくらいだと思うけど…わかんない。」
俺の答えにおとうさんはあからさまに動揺していた。
不思議に思って聞いたら、俺が見つかった時、側にそんな人はいなかったんだそうだ。
じゃあ、誰が俺の事を知らせてくれたんだろう…?
『智、二度と知らない人について行ってはいけないよ。
君はもう中学生だ。
警察を探せばいいことくらい分かるだろう…?
小さな子供じゃないんだ。
自分でそれは出来ないといけない。」
最もな言い草に、素直に頷くしかなかった。
確かに…
自分で警察に相談すれば済んだことだったのに…
おとうさんは怒鳴ったわけでもなく、ただ当然の事を指摘したに過ぎない。
それでも、自分に失望させてしまったんだと思うと悲しくなって情け無くい事に涙を流していた。
「うっ…ごめんなさい…ごめんなさい…。」
『智くんっ、お父さんはね、怒っているんじゃないんだよ。
いや、怒りことだな…
外国で不安だったかもしれないが、いい人に見えたとしても見ず知らずの人に付いて行っては絶対ダメだ。
それが判断できなかったわけはないだろ…?』
「そう…だけど…。」
『ん…?』
おとうさんがじっと俺の言葉を待っていた。
そんな時でも、待っていてくれる。
変わらない。
「……うまく事情を……説明してもらえると思ったんだ
」
『英語が出来ないから…?』
「…俺が悪かったの…秘書の人はここで待っていてくださいって言ったのに…。」
『…。』
「秘書の人が警察に…捕まるかもって…。」
『智くん…?』
「おっ、俺は上手く説明できないと思ったから…。」
『捕まるって…どういうことだね…?
秘書が何故捕まるんだ…?』
「法律が……違うんでしょ…?
アメリカは子どもを監督出来なかったら…刑務所に…うっ…ううっ…。」
おとうさんお秘書の人が捕まったらどうしようかと思ったんだ。
再び泣き出した俺をおとうさんが抱きしめていた。
そして、はぐれた場合は監督放棄にならないだろうと言い、何があっても親に相談するようにと言われた。
考えてみれば、おとうさんに電話すれば済む事だったんだ。
俺は、あの後…一体どうなったんだ…?
記憶がなかった。
後で入ってきた警察の人が何か言っていたがさっぱり分からない。
おとうさんによれば、俺は精密検査をしないといけないらしい。
いろいろ決まりがあってそうしないと家に帰っれないんだそうだ。
『体を調べられるけど…我慢するんだよ。」
俺は不安を感じながらも頷いていた。